ぼくはあまり頭がよくないので、むかしのことはよく覚えていない。
だから、いつからぼくがそこにいたのか、
それがどうしてなのか僕には判らなかった。
そのとき彼女はぼくを見つめていた。
ぼくも彼女を見つめていた。
ずっとずっとみつめあっていた。
それがどのくらいの時間だったのか、すごく長かったような、
でもほんの少しの時間のようにもおもえた。
大きな音を立ててむこうの交叉点をトラックが通り過ぎていったとき、
彼女は目をそらした。
……ぼくの勝ちだ。
それから彼女はまたぼくの方を見て、言った。
「わたし、さよこ」
彼女はさよこサン。
さよこサンはぼくを見ながら、すこし考えて、
「トロロ」
そう言った。
………。
きょうからぼくはトロロだ。